今回は、ビアトリクス・ポターの児童書『ピーターラビット』に登場するピーター始めベンジャミンバニー、そして絵本から切り抜いたようなシーンを再現した作品を展示します。また、不思議の国のアリスに登場するうさぎも展示いたします。どの人形も製作数が少なくなかなか見ることのできない貴重な作品になります。素晴らしいR ・John Wrightの世界をお楽しみください!
R ・John Wright
 アメリカの著名なドール作家。世界的に権威のある数々の賞を受賞し、最も才能のある作家と称されています。1976年ニューヨークに「R・ Jhon Wrigth Dolles,Inc」を設立し、妻のスーザンとともに数々の素晴らしい作品をつくり出しています。
 作品には、ウォルト・ディズニーのウィニー・ザ・プーや白雪姫のほか、星の王子様やオズの魔法使いなどの有名なキャラクターがあります。

ピーターラビットは、うさちゃん好きならずとも知っている、世界で一番有名なうさぎといえるでしょう。もともとは、ピーターは、イギリスのビアトリクス・ポターという女性が、自分の家庭教師の息子の病気見舞いに描いてあげた絵手紙から生まれました。1893年のことです。ピーターのモデルは、当時ビアトリクスが飼っていたうさぎでした。
その後、周囲の薦めで絵本の制作にとりかかり、ビアトリクスが少女の頃から別荘地として親しんだ湖水地方の野菜畑を舞台に、うさぎたちが活躍する物語をつむぎだして行きました。そして、実際に絵本として出版されたのは1902年のことでした。本のタイトルは「ピーターラビットのおはなし」。ビアトリクスの絵の最大の魅力は、擬人化された動物たちの動きや表情が、まるで今にもページから飛び出してきそうなくらい丁寧でリアルに描かれていること、湖水地方の美しい森や湖、野菜畑や花が活き活きとした彩色で彩られているところです。「ピーターラビットのおはなし」は成功を収めその後、リスやあひる、ねこの物語を次々に出版していきますが、ビアトリクスにとってピーターにまさるお気に入りはなかったようで、うさぎについては「こんなにめまぐるしく表情が変わる生き物は他にいない」と言っています。

1905年、ビアトリクスは本の印税で湖水地方のヒルトップ農場を購入し、ここで執筆活動を続けます。そして、美しく広がる湖畔を彩る色とりどりの花々を動物とともに愛でる生活の中、ガーデニングや家庭菜園、さらにはこの地方特有のハードウィック種羊の保護と養羊をはじめました。そんななか「産業革命から続く工業開発からこの土地を守りたい」と思うようになり、彼女は絵本の印税が入るたび、土地を購入していきます。それも、道沿いの土地から次々に買い足していく方法で、これは道の内側が無価値になり、開発業者に買われなくするためでした。1923年には、湖水地方で最も美しいといわれる牧羊農場を買い取り、1930年には湖水地方で最大級の大地主となります。ビアトリクスはその生涯を終えるまで、湖水地方の自然を守り続け、そして彼女が所有するすべての土地をナショナル・トラストに遺しました。ナショナル・トラストはボランティア団体で、産業革命で自然が急速に失われるなか、国民自身の手で大切な自然環境を守っていくという基本理念のもと19世紀に設立されました。ナショナル・トラストの理念は、現在では世界的に常識となっている環境保護の考え方の礎となるものです。そして、ナショナル・トラストは、ビアトリクスの遺志を忠実に受け継ぎ、湖水地方はビアトリクスが守り続けた景観そのままに、いまも人々の心に、自然と動物の共存の大切さを感じさせています。うさぎからインスパイアされたピーターラビットの成功により、湖水地方の自然は21世紀も美しく保たれ、2017年世界遺産に指定されました。いまある、湖水地方の自然は、うさぎたちが守ったものといえるかもしれませんね。